古酒の隠れ家

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恐怖大公の平穏な日常

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【第十三章 魔武具騒乱編】

19 初めての〈大公会議〉がうまくいきますように!


 うーん。なんだろう。
 初めての〈大公会議〉は、やっぱり自分の意思で開催したかったな。
 まあ、仕方ないけど、ちょっと残念だ。

 俺に少し遅れて〈大公会議〉の開催される会議場にやってきたベイルフォウスは、いつの間にやらその手に派手な槍を掴んでいた。
「魔槍ヴェストリプスか」
 俺の宝物庫から持って帰って以後、親友がその槍を手にしている姿を見るのは初めてのことだ。しかし、さっきは持っていなかったというのに。

「近頃、召喚魔術を覚えてな」
 疑問が思わず顔に出ていたのだろう。
 ベイルフォウスはなんでもないことのように言いながら、円卓の席につく。魔槍を自分の肩に立てかけ、その柄に指を這わせた。
 その手つきがなんとなくイヤらしく見えるのは、ベイルフォウスだからだろうか。うん、そうに違いない。
「なんなら、後でやるか? 大祭の時の約束もあるし、お前はその腰の剣、二本とも使っていいぞ」
 ふっ……言ってくれるじゃないか。余裕綽々ってか。

 そんな俺とベイルフォウスのやりとりはともかくとして、残りの五人の大公のうち、最初にやってきたのはプートだった。
「会議後ぜひ、アレスディアどのにお会いしたい」
 入ってくるなり有無を言わさぬ力強い口調でそう言われ、強引にちんまりした花束を渡された。
 いや、ちんまりと言ってもプートが持ってたからそう見えただけで、俺が持つと普通に普通サイズの花束だった。
 しかし、色とりどりの派手な花束を片手に竜に乗るプート……別に俺がもらったわけじゃないのはわかっているが、想像に若干ひいたのは内緒だ。

 僅差でやって来たのは、ロムレイド。
「あー……。僕、新人なんで、一番乗りするつもりだったのに……」
 ベイルフォウスとプートを見て、力なく肩を落としている。
「ジャーイル大公と、二人きりで話したいこともあったのに……」
 またしてもゾクッとした。
 俺と二人きりで、一体なんの用があるっていうんだ。

 次がサーリスヴォルフ、それからデイセントローズ。
 ちなみに、サーリスヴォルフは今日は女性の格好をしている。
 そして、最後がウィストベル。

 そう。ウィストベルもてっきりベイルフォウスと同じく、早めにやってくるかと思ったのに、待っても待っても一向にやって来なかったのだった。
 そんな女王様は見るからに、御機嫌斜めだった。雰囲気がピリピリしている。
 いつもどおり、露出度高めで、いつもどおり、とても華やかで美しい。それでも彼女が入ってくるなり、会議場の隅々まで緊張感が行き渡り、部屋の温度さえ下がった気がした。
 これは俺だけが感じている畏れなのだろうか。

 ともかく、全員が円卓についてから、俺は立ち上がる。
「忙しい中、はるばるよく」
「挨拶はいらぬ。とっとと始めよ」
 ウィストベルが冷たい。

「えー、おほん。では、〈大公会議〉を開催する」
 大公ならではの会議を仕切るのって始めてだから、ちょっと緊張するんだけど。
「今回集まってもらったのは、ある魔武具のことをみんなにも知ってもらって、その対処を話し合いたいからだ」
「ほんっとに君は武器とか、そういうものが大好きなのねぇ」

 サーリスヴォルフが、失笑さえ浮かべて呆れたようにため息をつく。彼……いや、彼女は今回の議題には、全く興味がないのだろう。
 それはプートも同様か。魔術の次は、肉体を駆使しての殴り合いが好きなようだもんな!
 ロムレイドなんて、まだ何も言ってないのに欠伸しやがった!

「それはもしやその、ジャーイル大公が腰に挿していらっしゃる、変わった剣のことなのでしょうか」
 興奮を帯びた声は、意外なところから上がった。デイセントローズだ。
 〝変わった〟剣ということは、洞窟で手に入れた反った剣のことなのだろう。

「この剣のことは関係ない」
 俺がきっぱりそう言うと、明らかにデイセントローズはがっかりしてみせた。  ラマの奴が魔武具に興味があるとは、耳にしたことがない。大祭主行事の話し合いの時にも、武具展に反対の立場をとったのだから。
 しかし、ラマの場合は本心の在り所はともかくとして、何にでも興味を示してくる、という印象はある。

「問題の魔武具は、これだ」
 俺は、魔王様が手ずから磨いてピッカピカになったウルムドガルムを懐から出し、机上の真ん中に置いた。
 その存在を未だ知らないウィストベルも、ピクリと頬を引きつらせる。

「紋章が入っているということは、魔族の造った武器って事なのかしら?」
 サーリスヴォルフが円盤の『〈真円を四つに分ける十字と鏃〉流血版』を人差し指でつつく。いつだって何でも知っていそうなのに、ガルマロスのことは本当に知らないようだ。
 なのにどうして魔武具だと見破れたのかって?
 人間たちが造った物にも、製造者の印が入っていることはある。しかし、その『人間がつけた印』と『魔族の紋章』との違いは、我らからすれば明らかなのだ。

「ガルムシェルトか……」
 そう呟いたのは、武器には興味がないはずの、プートだ。
 ベイルフォウスの瞳が剣呑な光を満たして、プートを()め付ける。

「ガルムシェルト?」
 一方、俺の腰の剣には反応したデイセントローズも、サーリスヴォルフと同じくその武器製造人の名に対する知識さえ、全くないようだった。欠伸をしているロムレイドは言うに及ばず、だろう。

「知っているのか、プート」
 ということは、まさかあの信憑性に乏しい本の記述通り、ファイヴォルガルムはプート領に?
 だがプートは、期待したのとは別の知識を披露した。

「かつて我が同盟者であったヴォーグリム大公が、その昔、ガルマロスという武器製造人をエルフォウンスト前魔王に献上した。そのガルマロスが最後に造った武器が、ガルムシェルトと呼ばれる三点の投擲武器だ」
 ああ、なるほど。プートと前魔王の関係は詳しく知らないが、同じデヴィル族、それも同じ獅子として、気に入られていてもおかしくはない。魔王様が知らなかったことを、ウィストベル同様、知っていたところで不思議はないじゃないか。

 アルマジロちゃんは、この武器が〝誰か〟のために造られたようだと言っていた。
 プートはその頃すでに強者だったのだから、その〝誰か〟本人ではないだろうが、無関係かどうかまではわかるまい。もっとも――

 俺はウィストベルの様子をうかがう。
 彼女はじっと、ウルムドガルムを凝視していた。
 その赤金の瞳に映っているのは、立ち上る魔力の姿だけだろうか。

「プートは実際に見たことがあるんだな、この武器を」
「ああ、ある。前魔王城でな」
「そいつはいつのことだ?」
 ベイルフォウスが、苛立った口調で問いかける。
 その程度で抑えてくれればいいが……。

「まさか、つい最近のことじゃないだろうな?」
 おぉい、ベイルフォウスくん!
「どういう意味だ」
 プートとベイルフォウスは、さすがに近すぎて正面から睨み合う気にはならないのか、どちらも相手を横目に睨み付けている。

「どういう意味もなにも、言葉通りだ」
「質問の意図がわからぬが」
 二人の声が、低い。とっても。
「つまり、プートは前魔王の時代にこの武器を見たんだな?」
 俺は口を挟む。これ以上、ベイルフォウスの不要な煽りを止めるためにも。

「さよう。我がガルムシェルトを目にしたのは、それが造られた時期……正確に言うと、ガルマロスがそのガルムシェルトを持って、魔王城に参った折のことよ」
 プートもさすがに全方位にかみつくわけではない。冷静な声で、他の大公に説明するように語り出した。
「その時、ガルマロスは血の涙を流し、自分の造る最後の武器だと言ってエルフォウンスト陛下に三点の武器を献上したが、陛下は平凡なただの武器などいらぬとおっしゃって、受け取られなかったのだ。私は偶然、その場に居合わせ、たまたま目撃したに過ぎぬが……」
 たくましい胸の前で黒毛の生えたごつい腕を組んだ拍子に、丈夫な椅子がぎしり、と音を立てた。
 細まった目が遠くを見つめているのは、当時のことを思い起こしているからだろうか。

 しかし、ガルマロスが強者たるエルフォウンストに、ガルムシェルトを渡そうとした?
 ガルムシェルトは弱者である〝誰か〟のために造られた武器ではなかったのか。
 それとも……前魔王を通して、誰かに渡そうとした?
 俺はウィストベルに一瞥を向ける。だが、やはり彼女は無表情を決め込んでいた。


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