古酒の隠れ家

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恐怖大公の平穏な日常

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【第十三章 魔武具騒乱編】

122 エピローグ


「なっ、どうした、アリネーゼ! 帰ったはずでは?」
 絡まれるのが嫌だからか、今日ばかりはヤティーンよりも早く、アリネーゼは退出していたのだ。だというのに……。
 いや別に! 焦る必要とかないんだけども、秘密の恋人とかでもないわけだし! なにか、してはいけないことをしようとしていた訳でもないしね!

「ああ……」
 アリネーゼは俺とジブライールを交互に見てから、一つ頷く。
「大丈夫、あなたたちのことはヤティーン公爵から聞きましたけど、別に何も思いませんわ」
「あ、うん……」
 本当に一片の興味もなさげな声で言われた。

「お聞きでしょうけど、副司令官公爵城への転居が完遂しましたので、ご報告申し上げますわ。同時に通信術式も設置いたしましたので、こちら、お渡ししておきますわね」
 そう言って、懐から『雀の横顔』の影絵の描かれた紙を差し出したのだ。そう、雀の……。

「忙しい身ですので、雑談でのご利用は、なるべくご容赦くださいませ。それでは、さようなら」
 そう言うと、俺が一度切ったこともある犀の角をツンと高く上げ、部屋を出て行ったのだった。

「なるほど、こういうのもありだったか……」
 ジブライールがアリネーゼの通信文様を、怖いくらい真剣な眼差しで見ている。
「こういうのって……?」
「あ、いえ! 私は単純に、紋章と同じく葵の図柄にしましたが、想う御方の姿絵にするという方法も」
「それはどうだろう! 俺は紋章と同じモチーフにした方が、わかりやすくていいと思う!」
 俺の横顔とかを城に刻まれても、それはそれで恥ずかしいし困るからね!

「なんにせよ、まぁ、とりあえずはスッキリしないところもあるが、一区切りかな……」
「スッキリしない……ですか?」
「ああ」
「えっと、それは……〈修練所〉のことではなく、ガルムシェルト関連のことで?」
「そうだ」

 魔王様の魔力を奪った実行犯であるヨルドルとは決着がついたし、彼を唆し、暗躍したとされるリシャーナも隠れていればよかったものを、わざわざ出てきて最終的には処断された。

 だが、俺としては人間……あのネズミを掴む鷹……だっけ。あの《組織》とかについてももっと調査を行いたかったというのが本音だ。他の大公の共感を得られず、残念至極ではないか。どう考えても、領境の結界破壊に関わっているだろうに……。
 それから、あの奇妙な出版社についても消息がつかめないままだ。なにせまだあれ以来、君は知っているかシリーズは配本されていないらしい。
 人間関連については仕方が無いので、せめて自分の領地では、機会があれば追求はしていこうとは思っている。

 最後の最後にわざわざ出てきたアギレアナのことも、釈然としない。本当にウィストベルが言うよう、今回の件に関わっているのか、そしてそれがただの愉快犯なのか、何一つわからないままだ。
 これに関しては、ウィストベルに更問いをしようとは思っているが。

 最後の最後に発覚したといえば、ベイルフォウスとデイセントローズのことは、一度ゆっくり話をしてみたいが……そういえば、俺たちもう親友じゃなかったっけ。
 それが一番の衝撃だったが、他にもミディリースとその父母、リシャーナと息子たち、ロムレイドとその姉妹といった、家族に関わりの深い事件だった、という印象だ。

 まだまだ、気がかりなことはたくさん残っている。が、なんにせよ、端緒となった魔王様の魔力は戻り、支配体系はちゃんと再始動している。何か問題が隠れていたとしても、今、見えないものについてグダグダ心配しても仕方が無い。
 悠々構えるのが魔族の強者、というものではないか。

「頭を切り替えて、修練所の運営を楽しむか」
「そうですね。なんと言っても魔王城の施設――特に修練所については閣下の発案ですし、その運営を担えるというのは、楽しみで仕方ありません」
「その点では、ジブライールこそ魔王城を建てるのに尽力してくれたわけだしな」
「つ、つまり……ある意味、二人の共同作業、ですね……」
「え? なんだって?」
 あまりにも小声すぎて、なんて言ってるのかわからなかった。
「え、いえ、あの……なんでもないです」
 ? なんかモジモジしているのだが。

 とにかく俺としては、今回の事件については一段落ついたと納得することとし、今後は修練所が滞りなく開場され、たいした問題も起こらず次に渡せることを、心から祈るばかりだった。

  【魔武具騒乱編】 了
  次章【修練所運営編】

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