古酒の隠れ家

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恐怖大公の平穏な日常

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【第十三章 魔武具騒乱編】

121 会議を一つの区切りとして、と思っているのは僕だけのようです


「さて、集まってもらったのは他でもない。修練所についての決定事項に変更があったためだ」
 俺は大公城の一室で、副司令官と軍団長を集めた修練所運営会議を開催していた。

「その変更が生じたというのも公布した通り、ウォクナンを副司令官から廃することとなり、その後任として、このアリネーゼを任命したからだ」
 俺が横に立つアリネーゼを示すと、デヴィル族随一の美女は胸を張って誇らしげに進み出た。
 束の間、デヴィル族男性から下卑た口笛や歓声があがる。

「ご紹介にあずかりましたアリネーゼですわ。以前は大公として君臨しておりましたので、まさか知らぬ者などおらぬでしょう。故あってジャーイル閣下に従属しておりましたが、この度、いよいよ副司令官に着任いたしました。特別なれ合うつもりもありませんし、これ以上の夫をもつつもりもありませんので、そこはご承知おきなさって」

 アリネーゼは口元を扇で隠しつつ、ホホホと笑いながら席につく。その挑戦的ともいえる自己紹介は、一部の反感と落胆と奮起を呼び起こしたようだった。
 なにせ興味津々、という好奇心の勝っていた雰囲気が、一気に殺伐としたのだ。今後は不用意に波風を立てるような発言は控えるようにと注意しておこう。
 ともかく、会議は始まった。

「つっても、ウォクナンが担うはずだった箇所を、アリネーゼが担当するってだけでいいんですよね?」
「ああ、それでいいのではと思っているが」
 つってもって言うな、雀。そもそもお前がこの会議を開いたらどうかといったのだろうが。いくら鳥頭だからって忘れたというわけじゃないだろうな。

「あら、せっかくわざわざ会議まで開いたのですから、再度の調整を試みてはいかがかしら。私も積極的に案出いたしましてよ」
 つまり、自分の案も採用しろ、ということらしい。まぁ、アリネーゼに慣れる目的があったので、多少の調整なら、ということで議論を許可することにした。

 しかし、話し合いは今までに比べ、混迷の様相を呈した。なにせデヴィル男性陣の多くが、とにかく意味の無い発言をしてでもアリネーゼと絡みたがったからだ。
 その上、喧嘩まで勃発しそうになった。
 俺はこのとき、初めて魔王様の進行方式が優秀なのではということに気がついた。

 もっとも、話が大きく逸脱しそうになるたび、ジブライールとフェオレスが冷静で的確なツッコミで本題に戻してくれていたので、実行することはなかったが。
 なお、ヤティーンは始終ゲラゲラ笑ってるばかりで、まとめるのになんの役にもたたなかった。まぁ前からそんな奴だからいいけども。
 ちなみにあれでもウォクナンは会議の司会進行は上手い方だったのだ。時々、脱線したりはしたのだが。

「そういえば、この会議の時だったよな、ティムレが例のウルムドを持ってきたのって」
 会議も終盤、ホッと一息をついたタイミングでそう発言したのは、ノーランだった。かつて会議に持ち込まれたウルムドを、ティムレ伯と投げ合っていた第十四軍団軍団長を務めるデーモン族の、ややマッチョな伯爵だ。

「あれが結局、ウルムドガルムとやらだったってことですよね? なんだっけ……ガルムシェルト?」
 魔王様に魔力が戻り、全てが破壊された今、ガルムシェルトの能力は、魔力を奪われた者の姿が変化する、という一点をのぞいて事象とともに末端まで広く公開された。それに対する反応は、様々ではあるが――

「おい、ティムレ。わかっただろうな? 今後は魔武具の扱いに対してもっと注意しろよ! 場合によっては俺に多大な迷惑がかかるところだったんだからな!」
「だから、先に投げてきたお前が言うなって!」
 相変わらず、ティムレ伯とノーランは仲が良さそうだ。

「全部閣下が破壊したって聞いてますが、残念でしたね。魔武具狂としては、手元に置いておきたかったでしょうに」
 誰かがそういった。いや、だから俺は別に魔武具狂じゃないというのに。こんなところで否定したところで、どうせ誰もきかないだろうから無駄なことはしないけれども。

 それはともかく、結局のところ、魔族の強者にとってはガルムシェルトという特殊な武器でさえ、この程度の認識、興味なのだ。なんならどうでもいい、という表情の者ばかり。
 あんな『弱者のための武器』といっていい武器(もの)が作られることになった経緯が、気にならないのだろうか? 俺は気になって仕方が無い。ただ、おそらくウィストベルが関わっていると思われるので、そこを強引に追求する勇気は無い。

「ところで、このような会議は今後、どうなるのでしょうか?」
 その発言は、この会議が始まって以降、沈黙を守っていた人物から発せられた。いいや、沈黙していただけじゃない。俺に対してずっと鋭い視線を向け続けてきていた人物――ドレンディオから。

「私の城にも、先日、通信術式を設置いたしました。軍団長までの城には、同様に設置が終わっているのでは? とすれば今後は通信会議が主となると思って良いでしょうか?」
 むしろ、会議は通信ですべきでは、という圧を感じた。どうやら、少しでも俺と娘の会う機会を減らしたいらしい。だが、俺は別に会議にかこつけて、逢い引きをしようなどとはこれっぽっちも考えてはいないのだ。

「そうだな、今日はアリネーゼに直接会ってもらうのがいいかと思ってこれまで通り、大公城での開催としたが、今後はほとんど通信会議でいいと考えている」
 平然と答えてみせると、少し拍子抜けしたような表情を浮かべたではないか。

「それがいいっすね! 大公城に近い奴なら今までも不自由なかったでしょうけど、遠い奴にとっては結構な頻度での会議は負担でしたもんね!」
 えっ……俺の会議って負担だったのか……っていうか、結構な頻度?
 まさかそんな風に思われているとは……ネズミは理不尽な命令の多い大公だったが、俺は面倒な会議の多い大公って思われているのか……。
 今後は気をつけよう………………。

「じゃあ、あんまり長いのもなんだから、決めることも決めたし、お開きにしようか……」
「よーし、じゃあ、修練所の運営当番に当たってる奴は、当日、現地に遅れず集合な!」
 まるで遠足の約束でもするかのように楽しげなヤティーンの言葉を最後に、会議は終了した。

「あ、あの、閣下……」
 八割ほどが退いたところで、ジブライールが小走りに駆け寄ってきて、両の拳をぐっと胸の前で握りしめながら言う。
「私は、会議が負担という意見には同意できませんし、そもそも開催頻度が多すぎとも、全く思っていません! 移動だって、竜でなら一瞬ですし、ヤティーンの言うことなんて気になさる必要はないと思います!」
 俺の消沈を察して、気を遣ってくれているのだろう。

「いや、大丈夫、気にしていないから」
「そうですよ、気にされる必要はないですよ!」
 遠くから、そう言ってくる声があった。ドレンディオだ。
「今後もぜひ、今の頻度での会議を、いいえ、なんなら今以上の頻度での会議を開催してください!」
 ……魂胆みえみえだった。

 しかし彼は、そのまま俺の反応を待たずに部屋を出て行ってしまったのだ。残るのなら、ちゃんと恋人としてのご挨拶でもしようかと思っていたのに。
 さすがに未成年の娘ではないのだから、心境はともかくとして、口出し手出ししすぎるのはいけないと自重することにしたのかもしれない。

 ちなみにジブライールは、あれから二日ほど連泊していったが、さすがに会議前に居続けるのはいかがなものかと、公爵城に帰っていた。
 今日からはいよいよ迫った〈修練所〉運営手配のため、余計に泊まってなどいけないだろう。
 とは言っても――よし、誰もいなくなったな!

「晩は食べていくだろう?」
「あの、よろしいのであれば……」
「もちろんよろ……」
「あ、そうだわ、ジャーイル!」

 誰もいなくなったから、と、ジブライールの頬に手を伸ばしかけた俺は、勢いよく開けられた扉に手を跳ねさせた。
 いや、さすがに会議室だし、今の今まで会議してたわけだし、ノックしろとは言わないよ! ただ、急に開けられてビックリしたよね!!


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