古酒の隠れ家

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恐怖大公の平穏な日常

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【第十三章 魔武具騒乱編】

24 ティムレ伯のお城を訪れるのも久しぶりです


「ここが元々、ウルムドガルムがあった部屋、ということで間違いないんですね?」
「うん、そう」
 俺はシルムス事件以来、久しぶりに、軍団長でもあるティムレ伯の城を訪れていた。
 今日は自分の所領の内とあって、ティムレ伯も憚りなく、以前の気軽な口調で話してくれている。正直、ちょっと嬉しい。

「なんか、かび臭くないですか?」
「うーん、あんまり普段、誰も入らないからね……」
 えー。そこはさ、せめて俺が行くって前触れも出しておいたんだから、掃除するとか、それが無理でもせめて空気を入れ換えるとか……。
「あ、現場保存の意味もあってだからね! ジャーイルくんに気を遣わなくて、掃除しなかったとかじゃないからね!」
 長い付き合いだけあって、俺の表情から心を読み取ったのか、ティムレ伯が慌てて弁明する。

 そこは宝物庫……いや、宝飾類とは別になっているのだから、純粋な武器庫と呼ぶべきだろう。剣、斧、弓、槍……さすがに大公城の宝物庫には遠く及ばないが、軍団長だけあって、普通の城より断然、武器・武具の品揃えは豊富で、数も多い。
 大公城にあるそれらのような収集目的ではなく、実用目的で備えられている、その数々の品――
 だが、なんていうか……手入れが……。
 あれも魔武具なのに、錆びてる……ああ、これも……もったいない!
 保管の仕方も超雑なんだけど! ただ立てかけてあったり置いてあったり、箱や筒に雑然とまとめていれられてたりで、ほとんど分類すらされてないんだけど!
 そんな中を奥に進み、棚に置かれた少し大きめの箱の前でティムレ伯は足を止める。

「ほら、空っぽでしょ。綺麗になくなっちゃった」
 周囲の棚板や箱の中身が白く濁る中、確かにその空の箱とそのわずかな周囲だけは、ホコリが払われている。

「それで、ここから無くなったものが、ウルムド数点だと」
「うん、多分ね」
 そう言いながら、ティムレ伯は表紙の黄ばんだ帳面をめくった。
 管理帳はあるが、見てのとおりボロボロだ。なんならインクがくっついて、開かないページもある有様。

 一体いつから、この武器庫は放っておかれているのだろう。一体いつから、在庫管理はおざなりになっているのだろう。
 だが、きっとこんな様子なのは、ここだけじゃない。
 むしろ軍団長の居城ということで、管理帳があるだけでもマシな方なのかもしれなかった。
 そのくらい、ほとんどの魔族は武器に興味が無い。

 余談だが、俺が男爵だった頃に住んでいた屋敷には、武器庫自体がなかった。みるからに不要物がまとめて放り込まれた、混沌とした物置に、武器を含めた前代までの領主の所有物が投入れられている、という具合だったのだ。
 不幸にも、武器だけを別に置くにふさわしい空き部屋も他になかったので、部屋はそこのままだ。もちろん、整理整頓はした。
 おそらく、他の屋敷や城もあんなものなのだろう。
 この件が解決したら、いっそ全領民に対して、武器の総点検をするように、とか命令してやろうかな。

「ウルムドがえっと……この帳面を信じると、七点? あったらしいんだけど、まあ結局、君に献上した一つ以外、全部盗られちゃったみたいなんだよね」
 そうなのだ。
 あのウルムドガルムを会議に持ってくる数日前に、ティムレ伯の城に不審者の侵入事件があったというのだから、調査しないわけにはいかないではないか。

「たまたま、うちの執事が気配に聡くてさ。急に『おかしな奴らがいる』とか言い出したわけ。でも、城中総出で探しても、知らない奴なんて全く見つけられなくてさ。参ったよ」
 聡くて、か。たぶん何らかの特殊魔術の持ち主なんだろうな。

「三人もいるはずだっていうのに、全然見つからないもんだから、うちの執事が一人で気配を探るしか方法がなくって。で、どうも宝物庫にいるらしいってなって、踏み込んでみたんだけど、やっぱり誰の姿も見えないんだもん! 結局は取り逃がしちゃってさぁ」
 ティムレ伯、軽い……。
「あ、でも、適当に撃った攻撃がうまく当たって、一人だけ仕留められたんだよ! そいつが持ってたのが、君に献上したあのウルムドってわけ」
 ああ、仕留めたんだ。

「ウルムドを盗む三人組、か」
 この話を聞いても、今回の大事件と無関係であると言えるだろうか?
 ちなみにウルムドガルムは、引き続き俺が預かっている。というか、今も幾重にも布を巻いて、懐に持ち歩いていた。

「びっくりしたよー。攻撃が当たって、そいつが死んだとみられる瞬間、何もなかったところに急に姿が現れたんだから!」
 死んだ途端に姿が現れた? 
 見つからない、というのはうまく隠れていた、とかいうレベルじゃないってことか。

「つまり、それまでは透明にでもなっていたと……」
「うん。そうとしか思えないんだよね」
 完全に見えなくなっていただなんて、まるでミディリースの隠蔽魔術じゃないか。
「でも、偶然当てられたのは一人だけ。あとは逃がしちゃったみたいでさぁ」
「それでその、仕留めた死体は?」
「そんなのもちろん、ウルムドを奪い返してすぐ燃やしちゃったよ。だってあたし、死体愛好家とかじゃないもん。床が汚れるのも嫌だし、そもそも調べる価値もなかったし……」
 ……ティムレ伯!
 まあでもゴニョゴニョ言ってるところをみると、まずかったとは思っているのだろう。

「そんな変わった事件があったのに、その後、武器庫の中さえ調査しなかったと……」
 なにせ、俺がファイヴォルとエルダーの提出を求めたおり、ようやく「ああ、そういえばこの間、武器庫に入った奴らがいたよね」と話題になり、ついでに調べてみたところ、他のウルムドの盗難が発覚した、とかいうお粗末な感じなのだ。

「だって、三人のうち一人は仕留めたわけだし、二人は追い返したし、事件はそれで解決したわけじゃん? でも、その後はいつもより警戒してたよ。また来るかもしれないって! 執事にも、もっと気を張るよういっといたし! そりゃあウルムドは他にも盗まれてたみたいだけど、けどだからって、武器庫全部調べるのもあれじゃん? 別に武器が一つ二つくらい無くなったからって……ねぇ」
「実際には六点ですけどね……」
「あ、いや、もちろん、盗まれたのがお酒だったら、さすがに猫公爵……フェオレスくらいには報告してたよ!?」
 俺が白い目を向けると、ティムレ伯は慌てたように取り繕った。

「でも、盗まれたっていっても、たかが武器だもん。まさか大公にまで報告するほどのこととは思わないよね。それにさ、うちの城の者たちは誰も傷ついてもなかったわけだし……そもそも盗んだ奴だって……」
 最後はまたゴニョゴニョになった。
 酔いもしない酒を盗まれる方が、重要事項とみなされるらしい。まあ、魔族の思考として考えれば、わからないではない。

「ごめんね。なんか……下手うったみたい?」
「いや、まぁ――それは両手の肉球で手を打ちますけど」
「……君、サラッと言うけど、それ、一応セクハラ発言だからね」
 尻に手を伸ばしてくる人に言われたくない!

 しかし、魔族の軍団長の城に入り込み、武器を盗もうなどという者がいるとは……どうも魔族の思考とは考えにくい。
 確かに大公や軍団長なんかの城というのは、拠点として普段から多数に解放されており、出入りも多い。だが、それを誰もチェックしていない、と言うわけではない。
 俺の城では家令や筆頭執事が、なんなら領土の出入りに至るまで把握しているはずだし、普通の城でも執事がその役を担っているはずだ。

「その執事に、直接話を聞く事ってできます?」
「大公閣下のご命令とあらばもちろん」
 ですよね!


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