古酒の隠れ家

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恐怖大公の平穏な日常

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【第十三章 魔武具騒乱編】

106 プートさんが〈大公会議〉を開いた真意とは


「それで? まさか今更、〈竜の生まれし窖城〉の攻撃者のことでもないんでしょ? なら、移築先を攻撃してきた者とやらの正体でも判明したのかな?」
「移築先にも攻撃が!?」

 同じくプートの同盟者であるといっても、サーリスヴォルフは〈爪牙煌めき咆哮高鳴る城〉への攻撃があったことを知っており、デイセントローズは知らないらしい。
 プートが相手を選んで情報を伝えているからか、それとも当人たちの調査能力が違うからなのか。どちらもありそうだが。

「ここ五年内で大公の顔ぶれは激しく入れ替わっておる。せっかく魔王陛下もいらっしゃる故、本題に入る前に、まずは〈大公会議〉について、皆の認識を合わせておきたい」
 せっかくって、そりゃあ魔王様はいるよね! だって魔王城だもの!
 その魔王様はプートと対面するよう、デイセントローズとロムレイドの背後の席について、弟と同じ黄金酒を飲んでいる。

「〈大公会議〉とは、七大大公による〝私的な〟会議である。通常は魔王陛下は臨席もされぬ。主催者は一名。その者が書面により他の大公を自らの城に招き、魔族の大事について話し合われる」
「今回すでに、主催者の城じゃねぇけどな」
 ベイルフォウスが腕を組んでそっぽを向きつつ、ボソッと呟く。

 これでも、戦闘禁止なのは当然として、相手を口汚くののしることも忌避される〈大公会議〉だから、その程度の反抗ですませているのだろう。
 そうでなかったら足癖の悪いベイルフォウスのことだ。少なくとも机に足を乗せるぐらいはしているかもしれない。

「つまりプートは、今後も〈大公会議〉を開く際には、召集時でも本会議でも、通信術式を使うべきではない、と言いたいわけだ」
 俺は確認のための声をあげた。
「その通りだ。だが、これは何も、術の発案者であるそなたに含むところあってのことではない」
 手を挙げて、気にしないと示してみせる。
 〈大公会議〉で話し合われることは、魔王大祭のことだったり、大公の断罪だったりという、大概重要なことだ。会って話すべきだという主張はわかる。

「招かれて参加せぬ者は、議題にかかわらず、大公の地位を放棄したものとみなす」
「呼ばれない場合もありますけどね」
 メイヴェルと共に〈大公会議〉に呼ばれず、主題にあがったことのあるデイセントローズが、拗ねたように言った。

「今回は魔王陛下にご臨席いただいておるが、それは、この場をお借りしたためではない。本来、魔王陛下が〈大公会議〉に参加なさることはない。もちろん、この度の議論にも参加されぬ。が、私の方からご意見を賜ることがあろうとは、先にお断り申し上げる」

 本来いない者として、「よかろう」と発言するのも遠慮しているのか、魔王様はただただ頷いた。どうやら単に場所を借りてるから見学でもしていってね! という意図で呼ばれたのではないようだ。
 まぁ、議題が〈爪牙煌めき咆哮高鳴る城〉の攻撃主のことであるなら、魔王様の魔力奪取から始まる一連の流れなのだから、せめて観覧は当然ではあるが……というか、魔王様を中心に据えた普通の会議にすべきじゃないのか、という気がしないではない。

「では、話を戻して、先ほどのサーリスヴォルフの問いに答えよう。否、である」
 唐突に結論を告げてから、プートはそもそもの事件のあらまし――俺やロムレイドと〈爪牙煌めき咆哮高鳴る城〉の築城予定地にいる時に、彼方から光線攻撃があり、その犯人を突き止めるべく配下を総動員したが突き止められなかった、ということを端的に説明する。

「では、なぜわざわざこの場を開いたのじゃ。そもそも相手が発覚していたところで、〈大公会議〉を開くほどのこととは思えぬが」
 ベイルフォウス同様、魔王城を借りての開催が気にくわないのか、ウィストベルも不機嫌だ。――いや、プートが主催であるという時点で、どのみち二人はこんな態度なのかもしれない。

「大公ウィストベルの言はもっともである。我とて、我が城の攻撃者を問題にして、いちいち〈大公会議〉を召集しようとは思わぬ」
 いつもと違って牙をむきもせず静かな口調で語るプートに、ウィストベルは違和感を感じたのか、怪訝な表情で押し黙った。

「魔王陛下の魔力強奪にはじまるこの一件――それがとどのつまりは一家族間の(いさか)いであることを明白にするべきではないかと考えた故、〈大公会議〉としたのだ」
「何が言いたいのです?」

 殺気立ち、腰を浮かしたのはデイセントローズだ。
 それはそうだろう。実行犯はヨルドルでも、裏で小細工を弄していたのが彼の叔母リシャーナであることは判明しているのだから。
 だが、そんなことはとうにわかっていたことだ。それを問題にするのなら、前回の会議の時にそうすべきだったのではないだろうか。

 それともあのときには自分は通信で短時間の参加だったから、追求するのを遠慮したとかなのだろうか。
 まぁ、確かに忙しかったろうしなぁ。それどころじゃなかったよな。にしたって、わざわざ日を改めて〈大公会議〉を開くようなことなのだろうか、とは思わないでもない。
 それこそ通信術式を利用した会議でも開いて、話し合うので事足りるのでは?

 ……いや、魔武具を探そう! で開いた俺が言えることじゃないかもしれないけど! っていうか、あれは俺発案じゃなかったけども!
 ぶっちゃけ、〈大公会議〉がどういう議題なら開けるのか、俺ははっきりわかっていないのだ。どうせ認識を合わせるというのなら、俺も含めて新任といっていい三名に基準が知れるよう、説明してくれればいいのに。

「確かに今回の件には、我が叔母リシャーナが絡んでいました! 叔母と母は不仲でもあります。しかし、それで一家族のことというのは乱暴ではありませんか!? 私と母は直接の被害を受けていませんし、むしろ夫を殺害したジャーイル大公への恨みから、今回のことを企んだと思えます!」
「は? 俺?」

 この間は母親を呼び出して、叔母との関係を語らせようとノリノリだったくせに、責任を追求されそうな気配を感じた途端、俺に原因を求め出すとか、ラマの奴、ホントに小物にもほどがあるだろう。
 人間をも巻き込んでヨルドルに魔王様の魔力を奪わせたのが、リシャーナの甘言によるのは事実だ。
 確かに俺は、彼女の元夫であるネズミ大公ヴォーグリムを()った。

 そもそも、あの男は生まれた子供を殺すようなゲスだったため、リシャーナだってその元を逃げ出していたのだが、それでも息子のリーヴを復讐のために送り込んできた過去もある以上、愛情を抱いていなかったとは言えない。
 だとしても、だ。魔王様やプートにまで及んだ攻撃の最終目的が、俺への復讐、というのはさすがにどうなのだろうか。

「だいたい、原因がなんであれ、自分が反逆者を捕まえられなかった、取り逃がしたからと言って、一人の大公に責任を負わせよう、などというのは責任転嫁というのであって――」
「デイセントローズよ! 我がいつ、そなたに責任を取れなどと申した! だいいち、リシャーナのような小物のことをいつまでも問題にはせぬ! 愚かな口は慎むがよい!!」
 いつもの大音声ではないが、それでもデイセントローズを黙らせるだけの圧が、その声にはあった。

「そなたが無関係とは言わぬ。しかし、我が言わんとするところは、そなたよりむしろ、別の大公が識るところであろう」
 そう言ってプートは、デイセントローズから視線を外し、彼の右手――つまりは俺とベイルフォウスが並んで座るこちらを、意味ありげに見てきたのだ。
「私の言っていることに、間違いがあろうか? 大公ベイルフォウスよ」


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