古酒の隠れ家

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恐怖大公の平穏な日常

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【第十三章 魔武具騒乱編】

107 ある大公に向けられた疑念


「我の言わんとするところが、おわかりであろうな。大公ベイルフォウス」
 プートは俺ではなく、ベイルフォウスを見据えてそう言った。
「ああ、言い直そう。家族というか、そなたの親族間の問題に端を発しておるに違いあるまい。つまりこれは、貴殿の家庭内不和に他の者が巻き込まれた、ということであろう!」
 んんん? プートさん? 結論が飛躍しすぎてついていけませんが??

「どういうことだ? 確かにヨルドルの標的となった魔王様と、ベイルフォウスは兄弟だが……」
 俺は疑問を口にしつつ、隣に座るベイルフォウスをみる。いつもならすぐさまプートに食ってかかるだろうに、どうしたことか今は涼しい顔だ。
 標的が自分から移って安心したのか、デイセントローズも大人しく口を噤んでベイルフォウスの動向を見守るようにしたようだった。

「そなたは言っていたな。リシャーナと初めて会ったとき、激しく喰ってかかってきた、と」
「俺のことを嫌う女がいるのは信じられないと? それは光栄だな」
 ベイルフォウスは肩をすくめる。
「ああ、信じられぬな。そなたのそれは、女好きする容姿のみにあらず。特殊魔術が関わってのことであろう。だというのに、初対面の女に罵倒されるほど嫌われた? あり得ぬことではないか?」

 俺はベイルフォウスの特殊魔術を、本人から聞いて知っている。ちなみに割と(しも)関係だ。というか、ガッチガチに下能力だ。つまりナニがナニでナニなのである。
 俺は全くうらやましくないが、そりゃあモテるだろう! という能力だった。
 本人が隠している風でもなかったし、知るものは知る事実なのだろう。
 ちなみに、ジブライールは知らないでいてほしいし、そちら方面は本当に疎そうだから、知らないと信じている。

「つまりプートは、実は俺がリシャーナを裏で操って、ヨルドルを唆させて人間と手を組ませ、兄貴を襲わせた、とでもいうのか? この俺が?」
 誰が見てもブラコン気味に見えるだろうベイルフォウス君が、殺気をにじませる。疑念の内容もそうだが、上位魔族として、コソコソ画策するような人物だとみなされるのも許し難いのだろう。
 まぁ、実際は謀って俺から魔力を奪おうとしたけどな!!!
 俺はそのことを一生忘れないけどな!!!!

「さすがにそれはあり得ない」
 内心はおいといて、俺が冷静に請け負う。
 そうだとも。ベイルフォウスは、俺やウィストベルの魔力を奪ってでも、魔王様に魔力を戻そうとしたのだ。黒幕だというなら、そんなことをするはずがない。

「我とてベイルフォウスと長年、魔術を交えてきた者として、そのようなことを企むとは考えてもおらぬ」
 プートさんも、どうやらベイルフォウスが他人に兄を襲わせるような人物だとは思っていないようだった。

「だが、言うべき事を言わぬ男だとは思っておる!」
 それは全面的に賛成だ。教えてくれてもよいのでは? ということを、だいたい秘密にする。
 ちなみにマーミルにやっていた鞭の魔武具としての能力も、未だに教えてもらっていない。
 妹に聞いても、なぜだか「えっと……」とか言って気まずそうに口ごもるのだ。まさか怪しい能力なのでは!? と疑ったが、アレスディアが「大丈夫ですよ。魔力の強弱に関わる能力ですので、まだ弱くておこちゃまのお嬢様は照れて言いたくないだけですよ」と鼻で笑いながら保証したので、無理に聞き出してないだけだ。

「つまり、どういうこと? わかるように言ってくれないかなぁ」
 サーリスヴォルフが薄いため息をつき、微笑を浮かべて腕を組む。
「つまりはこういうことである」
 プートはそう言うや、改めてベイルフォウスに厳しい視線を向けた。
「そもそも、かつてリシャーナが我をはじめとする大公を誘惑しようと声をかけてきたのも、あれの双子の姉への嫉妬心が原因。故にまずは大公第一位である我が最初の標的となったのだ。大公と閨を共にし、子を授かった姉に、自身が劣るわけがないという対抗心からな!」

 ん?
 んんん?
「えっとつまり……?」
 俺はプートとベイルフォウスを見比べる。

「あのペリーシャに手を出せる者が、ベイルフォウス以外におると思うか? ああ、いるわけがなかろう。そのことに、早く気付くべきであった」
 んん? ええ? はい???
 えっと……それはつまり……ってことは……??

「どういう意味でしょうか! 我が母に対してのひどい言い草、さすがに抗議させていただきます!」
 デイセントローズが机を叩いて立ち上がる。
「それに、リシャーナの最初の動機がどうであれ、そのことでベイルフォウスが責められるのはおかしいでしょう!」
 ベイルフォウスとの関係は否定しない?  えっと……つまり……ということは、本当に……???

「デイセントローズは……ベイルフォウスの……?」
「息子だな」
 此方を見はしなかったが、ベイルフォウスの表情は、だからどうした? と言わんばかりだった。

 俺の混乱がわかるだろうか???
 今まで考えもしなかったことを言われて、脳内が真っ白になってしまっている。
 この〈大公会議〉の議題ですら、とんでしまったような状態だ。
 いや、確かにベイルフォウスはあらゆる女性に手を出してきたんだし、子供がいるっぽいのも知ってたよ。
 大公位争奪戦を思い返してみれば、飛び出したペリーシャを抱きとめるベイルフォウスを見て、感心したこともあった。
 だけど、だからって、デイセントローズが息子だとは、誰も思ってもみないよね!?

「魔王様は、知ってたんですか?」
「……もちろんだ」
 ですよね! さすがにですよね!
 え、でもちょっと待って……ってことは……?
 え? 魔王様は弟の妻――いや、妻だか愛人の一人なんだか過去の恋人なのかだかは知らないが――に寝所に潜り込まれて……?
 え? 俺は親友といっていた男の息子に妹を害されて?

 そういや、あのときはベイルフォウスがデイセントローズを半殺しにしたんだっけ。
 あれはマーミルを可愛がってのことでは……? まさか、他所のお嬢さんに手を出してはいけません、的な、しつけだった!?
 んんん???
 なんだかよくわからなくなってきたんだが!?

「なるほど……どうりで甘いはずじゃ」
 どうやらウィストベルも、二人の関係は聞かされていなかったらしい。
「それは私も思ってたよ。前回のベイルフォウス主催の会議も、本来ならメイヴェル、デイセントローズ二人とも、斬首されてたろうしね」
 ちょっと待って。そうなると、意味が違ってこないか?

「待て。あのときは俺だって、ちゃんと二人ともの責任を追及するつもりだった。単に、ロムレイドがメイヴェルの首を先に刈ったからで――そこまで甘くねぇ」
「私は何も悪くないのに!」
 デイセントローズがショックを受けた、というような顔をしている。
「あれー? なんか僕のこと言ったー?」
 ロムレイドは今回は本当に寝ていたのか、半目をこすっていた。
 俺なんか、どれだけ眠かったとしても、こんな話題の時に間違っても眠れないわ!

「リシャーナは妹と張り合うため、大公を夫に望み、それは先のヴォーグリムによって果たされた。つまり、自身も待望の『大公の子』を得たのだ。そうだな、ジャーイル大公?」
「え? あ、うん……そうだが……」
「だが、夫は奪爵されて亡くなり、期待した息子は無爵のまま。片や憎き姉の息子は大公に就任し、その父も未だ大公位に健在のまま、とくれば……」
 いや待って!
 なんでみんなそんなサラッと落ち着いてるの?
 俺はまだ混乱中なのだが???
 頭がついていけていないのだが???
 今まで見てきた何を信じればいいのか、わからなくなっているのだが???


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