古酒の隠れ家

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恐怖大公の平穏な日常

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【第十三章 魔武具騒乱編】

110 急にどうしました、サーリスヴォルフさん


「そもそもウィストベル。君と、それから彼女の弟であるロムレイド」
「え、僕?」
 自分が議題に乗るとは思っていなかったのだろう。突然名を呼ばれたロムレイドが、目を白黒させている。

「君たち本当は、今回のことにあの公爵が関わっているのだと知っていたのじゃないのかな? なにせ片や領主、片や実弟だ。しかも、君たち二人は同盟者同士でもある。そりゃあ疑われても仕方ないよね」
 うん、まぁ……正直、サーリスヴォルフがおう言うのも無理はない。なにせその指摘通り、実の弟であるのは間違いないのだから。  なんなら、さらに関与を疑われても仕方ないと思う。

「いや、ロムも知らないよ、ホントに! さっきも言ったけど、僕はアギ姉さんには特に嫌われてるんだ! っていうか、会うのもさっきのが二百年ぶりくらいだし!」
 今回ばかりは呆けていられないとみて、一生懸命に主張している。

 俺は双方の領地に渡る地下の穴のことを話題に出すべきかと考えて――もう少しだけ、様子をみることにした。同じく知っている魔王様も、何も言わないし。
 もっとも周知の通り、魔王様はずっと口を挟まず、大人しくこの会議を傍聴しているのだが。

「本当かなぁ? だいたい、君が大公になったタイミングがよさすぎやしない? その実力を持ちながら、今まではそれでもじっと伏せていたのに、なぜ急に大公になったのか――」
「それは、メイちゃんが――」
「彼女の行状が目に余ったというのは説得力に欠けるな。だってそうだろう? 放っておいたって、君ほどの長寿の高位者ならば、ベイルフォウスが激怒することなど予想できたろうからね。デイセントローズとの関係など知らなくとも、だよ。ましてや君の姉の一人はベイルフォウスと親しい」
「確かに、イム姉はベイルフォウスにゾッコンだけれども――」
 ゾッコンって、久しぶりに聞いた気がする。

「僕はベイルフォウスとは仲良くなかったわけだし、高位者だからって、みんながみんな、自分たち大公の性格を把握していると考えるのは乱暴だと……それに正直……」
 メイちゃんの首は花瓶に丁度良いと思ったんだ、とは、聞こえるか聞こえないかというぐらいの小声だった。

「まぁ、もし知っていたとすると、正直に言うはずもないよね。イムレイア、だっけ? 彼女が表舞台に出てきたタイミングといい……君とウィストベルが何も知らなかったと主張するのは、ちょっと疑問だよね」
「知らぬ」
 サーリスヴォルフの追撃に、ウィストベルは今度は動揺を微塵も感じさせない態度で、きっぱり応じた。

「私は何も、加担していると疑っているわけじゃないよ、ウィストベル。君に関しては。ただ気付いていたんでしょって聞いているだけだよ? 知っていたと白状したところで、それを責めるつもりもないし」
「知らぬ」
 ウィストベルは再度、きっぱりと断言する。

 それだけではさらなる追求を招くだけだと考えたのか、言葉を続ける。
「確かにあの娘は問題児であるが、だからといって、まさか陛下に害しようと企むとまでは考え及びもせぬ。ただ、ここに来て話したあの態度で、その関与を怪しんでおるのみじゃ」

「本当かなぁ? なにせ君たちデーモン族は、秘密が多すぎる。ベイルフォウスとデイセントローズのこともそうだよね。……ああ、そういえばデイセントローズは厳密には純血のデヴィル族とは言えないのじゃ? デヴィル族、デーモン族のどちらになるのかな?」
「当然、私はデヴィル族です! この外見で、まさかデーモン族とは思っておりません! 出自が知られたところで、誰もそう見なしもしないでしょうし」

 確かに、デヴィル族はいろんな動物の複合体なのだから、やはりデヴィル族とデーモン族の複合体であるデイセントローズは、デヴィル族に含まれるのだろう。
 こういう事情も加わって、デヴィル族は年々、デーモン族より余計に数が勝っていくのに違いない。

「まあ、確かにデヴィル族とデーモン族の混血は、外見的特徴で分類されるものね。でも、心情はどうなのだろうね? デーモン族とデヴィル族と……いや、この場合、ベイルフォウス寄りというのが正しいのかな。我々(デヴィル)と同盟を結んだのも、デヴィル族同士の結束を望んでのことかと思っていたけれど、そういえば君は最初からデーモン族の彼らにも、同盟を申し出ていたのだったよね。つまりは我々の情報を、ベイルフォウスに流すのが目的だったのかな? だから今の今まで、暴かれるまで、黙っていた?」
 サーリスヴォルフはそう言いながら、デイセントローズではなくベイルフォウスを見ていた。

「そんなつもりは――私はただ、皆様と仲良くなりたいと、純粋にそう思っていたのです!」
 ……つい昨日までなら裏心を疑っていたろうが、今となってはもしかすると、これは本心なのかな? とか思いだしている自分がちょっと嫌だ。

「この俺が、デヴィル族の動向なんぞ……」
 一方、ベイルフォウスは嘲笑を返す。探ってどうする、と思っているのが言わなくてもわかった。
 しかし正直なところ、わざわざ指示はしないでも、その状況を利用するだろうな、とは思わないでもない。だってベイルフォウスだもの。

 それにしても、サーリスヴォルフはどうしたんだ。なんか急にアチコチに波風たてようとしすぎじゃない?
 もしかして、次は俺?
 俺にも何かいってくるつもりだろうか?
 思わずそう、構えてしまったときだった。
 別に俺と同調した訳ではないだろうが、ウィストベルがそんなサーリスヴォルフの態度に疑問を呈したのだ。

「サーリスヴォルフ。主は一体、急に何だというのじゃ。子のことなぞ、ベイルフォウスに限らず公言せぬ者もおるであろう」
 確かに、他ならぬサーリスヴォルフがそういうことを言っていたのを、俺も覚えている。
 ……ちなみに、まさかウィストベルにも隠し子がいるとか、そんなことは言わないよな……? だから援護しているとか、そんなことはないよな……?

「それに私とて、配下のことをすべて把握している訳ではない。しかし、それは主も同様であろう。何か問題が起こったからといって、表だって出てきてもおらぬ特定の配下の仕業だとは、それ以前に何かの指標でもなくば疑うはずもない。そもそも私の関与を疑うのであれば、主こそなぜ今の今まで沈黙していた。それこそ主の能力を使って、あの娘がおる間に問い質せばすんだことではないのか」
 ウィストベルが強い口調で反撃する。

 確かにアギレアナのいる間、サーリスヴォルフは一言も言葉を発していなかった気がする。
 ウィストベルの示した通り、サーリスヴォルフの特殊魔術は相手の気持ちがわかるとか、嘘が見破れるとか、そんな感じのものではなかっただろうか。いや、ハッキリ本人に聞いた訳ではないが、ちょくちょく示す勘の良さ……それが特殊魔術だと仄めかされていたよな。

 ならばさっきの指摘通り、サーリスヴォルフが公爵に直接、質問すればよかったのではないだろうか。しかし、とはいえ特殊魔術だからな……そんな便利で簡単なものではないのかもしれない。世の中には、発動に制約のある特殊魔術もあるのだ。
 それとも、黙っていたのは意図的だとか?
 いつもサーリスヴォルフの真意を疑っているベイルフォウスは、今回もきっとそう疑っているに違いないけども。

「もう、よさぬか?」
 サーリスヴォルフが反論する前に場を浸したその言葉は、今までの調子とは違い、静かに諭すように紡がれた。

「デーモン族、デヴィル族とこだわらず……それこそ幸いにも、デヴィル族ではあるがデーモン族の父を持つ大公もいることである。ここらで一度、歩み寄ってみぬか?」
 魔王様の発言か? と、誰もが一瞬、勘違いしそうになったに違いない。  しかし、その発言主はプートだったのだ。 「は? なんだって?」
 俺はそれほど意外とも思わなかったが、金獅子と長年反目し合ってきたという自負からだろうか、ウィストベルとベイルフォウスは驚きを隠せないようだった。


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