古酒の隠れ家

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新任大公の平穏な日常

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【第二章 二年目の日常】
15.久しぶりのベイルフォウスは、やっぱりいつものベイルフォウスでした

 まったく、まさかベイルフォウスがあんなことを言い出すとは!
 昨晩は万が一を考え、「俺がいるから大丈夫だとは思うが、お前も気をつけていろよ」と、隣の寝台で眠るマーミルに声をかけておいたが、夜中じゅう緊張を強いられた。
 結局、誰も寝室には入ってこなかったが……。女も男も。

 そうして無事朝を迎え、俺とマーミルはベッドから降りて服を着替えた。ちなみに、寝間着も今日の着替えも、泊まりのつもりではなかったから、ベイルフォウスに借りている。
 大公の城に限らずどこの屋敷でも、急な宿泊客のために、大人用の着替えは男女共に用意してあるのが普通だ。大人用は。
 マーミル用のワンピースもすんなり出てきたのには、正直驚いた。
 まさか、ほんとにロリコン?

 いや、マーミル用の着替えが用意されていたのは、たぶん、俺とは親友なわけだし、マーミルの師匠でもあるのだから、いつかは泊まることがあるかもしれないと考え、気を利かせて用意しておいてくれただけ……うん、きっとそうに違いない。
 それか、仕立て係とかに命令して、大人用の衣服を急遽妹用に仕立て直してくれたんだ、きっと。

 俺の入浴時に対してあの扱いがあった後に、あの発言だったから、昨夜は思わず過剰に反応してしまったのだが、なにも本当にベイルフォウスにその趣味があるとは思っていない。
 思って……いない……本当に……。

「なんだか、こうしてお兄さまとずっと同じ部屋で過ごして、横で眠ったりするのなんて、新鮮ですわ」
 俺の心配なんてどこ吹く風のマーミルは、昨日から随分楽しそうだ。
 寝ぼけたのか、昨夜は途中で俺の布団に潜り込んできて、結局朝までそのままだった。起こすのもかわいそうだから、そのままにしておいたが、正直俺はあまり人と一緒に寝るのは好きじゃない。
 なぜならば、独り寝の時期が長いからって、うるさいわ!
 な……泣いてなんかいないんだからっ。

 朝食は、昨日のうちにどこでとるか聞かれていたので、ベイルフォウスが食堂でとるなら一緒に、そうでないなら適当に、とお願いしてある。
 二人とも着替え終わって居室で少しゆっくりしていると、タイミングを見計らったかのように扉がノックされた。
「あの、お目覚めでございましょうか、ジャーイル大公閣下。お飲物をお持ちしました」
「ああ、起きてる。入ってくれてかまわない」
 失礼します、とのせりふと共に、若い従僕がワゴンを押して居室に入ってきた。ベイルフォウスが俺たちの従者にとつけてくれたデーモン族の若者だ。従者など、別にいらないと答えたのだが、強引につけられた。

 成人したてのようなその従者は、俺とマーミルの姿をみると、明らかに狼狽したようだった。
「も、申し訳ありませんでした」
「なにが?」
 入ってくるなり、謝られる意味がわからない。
「あ、あの、ご主人様からジャーイル大公閣下のお着替えを手伝うようにと……それから、マーミル姫にもお着替えには侍女が必要だろうから手配するようにと、申しつけられていたのですが、その……」
「ああ、それなら大丈夫だ。必要があれば呼んでた。だが、別に俺たちはここの主人と違って、誰かが手伝ってくれないと着替えられないということはないからな。な、マーミル」
「ええ、その通りですわ。私はそんな幼い子供じゃなくてよ!」
 マーミルは頬を膨らませて答えた。

「それより、飲物をありがとう。マーミル、何かもらうか?」
「お水で結構ですわ。起き抜けの一杯! これこそ、健康と美容のために、欠かせませんわ!」
 マーミルはそう答えながら、居室に備えられた鏡台の前に座った。そして、長い金髪の巻き髪に櫛を通して曰く。
「それよりお兄さま、髪の毛を結んでくださらない?」
「え、俺が? 無理」

 いきなりなんという無茶ぶりをするのだ、妹よ。俺は自慢ではないが、女性の髪を結うたことなど一度としてない。それ以前に触れたことすら、ほとんどないというのに。
「すぐに侍女を連れて参ります」
 従者は水を注ぎかけたコップを慌てた様子でワゴンに置いた。
「いいわ。自分で一つにまとめるから、リボンを巻いて欲しいだけなの。貴方で結構ですから、してくださらない?」
 マーミルは立ち上がって水を用意していた従者のそばに行き、ピンクのリボンを差し出す。
「わ、私がですか? で、でも……」
 従者はオロオロとしている。なんかこいつ、ちょっとイースを思い出すな。
「できませんの? 蝶結びにしてくれたらいいだけですわ」
 マーミルはまた頬を膨らましている。俺はため息をつき、妹の手からリボンを受け取った。
「俺が結んでやるよ、その代わり下手でも怒るなよ?」
「もちろんですわ!」
 妹は上機嫌でそう言った。

 結果を申し上げよう。
 現状、リボンは歪みまくり、妹の頬は本日三度目の膨張を見せているが、それでもやり直せとは言われなかった。

 ***

 ベイルフォウスは一緒に朝食をとるそうだが、用意がまだ整っていないらしい。とにかく従僕が一階の社交室にというので案内通り降りていくと、主の姿がすでにあった。
「なんだ、マーミル。その頭」
 ベイルフォウスは妹を見るなりそういうと、身近な椅子近くにマーミルを呼び寄せ、その背後に立つ。
「誰がやったんだ。へっったくそだな。うちの侍女か? まさかあの鈍くさい従者じゃないだろうな? 俺がやり直してやるよ」
「お兄さまですわ。意外に手先が不器用ですの」
 くっ……うるさい!
 ついでにいうと、ベイルフォウスは手先が器用なようだった。どう手を動かしているのかさっぱりわからないが、複雑な編み込みができあがっていく。

「で、今日はどうするつもりなんだ?」
 髪を結い上げながら、ベイルフォウスがそう質問してきた。
「わざわざ城にきた理由を、そろそろ聞かせてくれてもいいんじゃないか?」
「マーミルがあんまりお前が来ないんで、何かあったのかと心配して、顔を見たいと言い出したんだよ。領内ならともかく、領外の、しかも大公の城を訪ねるのに、妹一人で送り出すわけにはいかないだろ?」
「ちょ……ちがっ」
 妹よ、お前は昨日、そう言ったではないか。何が違うというのか。照れ隠しか?
「ベイルフォウス様! ……の、……お兄さま……」
 真っ赤になりながら妹はベイルフォウスを仰ぎ見て、こそこそと何か言い訳を言い、それを聞くベイルフォウスはにやにやしながら「わかってるわかってる」と、頷いている。
「よし、マーミル。これでどうだ?」
 ベイルフォウスは最後にリボンを二重の蝶結びにすると、マーミルの金髪をポンポンと軽くたたいた。妹は早速立ち上がって、庭へ続くガラス戸に自分の全身を映すと、ベイルフォウスを振り返って親指を立てる。
「完璧ですわ!」
「そうだろうとも」
 ベイルフォウスもご満悦だ。
 それからベイルフォウスは妹の側から、俺の方へと歩み寄ってきた。

「まあ、理由はなんでもいいさ。俺もちょうど、お前と食事会への参加について、話したかったしな」
 ベイルフォウスの瞳が、剣呑に輝く。
「届いたろ、デイセントローズから昼餐の招待状。お前、行くのか?」
「ああ、それな……」
 ラマの顔が刻印された招待状が届いたのは、つい二、三日前のことだ。俺は舞踏会を開いて家臣団もぜひ、としたが、デイセントローズが催すのは大公本人と家族のみを招待した、食事会のようだった。
「俺自身は行くつもりだが、正直マーミルの参加は迷っている。なにせ妹も、あの<死して甦りし城>には、マストヴォーゼが健在の時に何度か訪問しているからな」

「私は参りますわよ、お兄さま!」
 マーミルから力強い言葉が発せられる。
「大丈夫なのか?」
 妹はふわりとスカートを翻しながら、俺の方へ振り返った。
「私はむしろ、見てこないといけませんわ、お兄さま。ネネネセたちのお城が、今はどうなっているのか」
 ネネネセって、ネネリーゼとネセルスフォのことか?
 それはともかく、妹の瞳には強い決意の色が浮かんでいた。意見を翻す気はないのだろう。俺がダメだといえば従うだろうが、正直強く反対する理由はない。

「そういえば、ベイルフォウス。お前、今現在、マーミルの剣と魔術の師匠でもあるわけだが、今後もまだ指導してくれるつもりはあるのか?」
「急になんだ? まあ、今までのように頻繁にとはいかないが、そりゃあ行った折りには相手してやるよ」
「いや、それがな……マストヴォーゼの娘のうちの二人が、自分たちもマーミルと一緒に剣と魔術を習いたいと言い出したんだ」
「なあ、ジャーイル。お前のところを長く訪問しなかったのは」
 ベイルフォウスは珍しく困ったような顔をして、頭をかいた。
「正直に言うと、マストヴォーゼの家族に会いたくなかったからというのもあってな……」
 マーミルに聞かせたくないのか、随分小声だ。
「辛気くさいのは苦手だ。家族を亡くしてすぐの相手には、どう接したらいいかわらん」
 ベイルフォウスがそんなことを言い出すとは意外だった。
「別に気にすることはないさ。大公に限らず、有爵者の家族である限り、庇護者を失うかもしれないという心づもりは常に持っているだろう。それに、マストヴォーゼの細君も子供たちも、みんな元気にやってるしな」
「そうは言うが……そういうのって、ある程度強がってるのが見えたりしねえの? 俺は誰も失ったことがないんで、わからん。親父とはガチンコ勝負したことはあるけど、殺してはないし、お袋も健在だ。それに正直、兄貴が死んだらなんて考えたくもない……そんなことになったら、たぶん暫く立ち直れない」

 あれ? こいつマジでそんな繊細なのか? 女性関係はアレなのに。
「まあ、マストヴォーゼの娘たちの教授もとはお願いしないさ。そもそも、マーミルの相手だって、お前の純然たる好意の結果だしな。さっきの話は忘れてくれ。ただ、娘のうちの四女と五女がマーミルと仲がよくてな。姿は見ることになるかもしれん。それより、マストヴォーゼの話がでたついでに聞きたいことがあるんだが?」
「なんだよ?」
「この間、俺がデイセントローズの勝利を魔王様に報告したときのことだが……お前、マストヴォーゼが選ばれたのは、当然みたいに言ってたよな。当たり前の理由でもって……だが、それ以外の理由でも、マストヴォーゼだったろうって思ってるんだろ?」
「いらんこと言ったな、俺」
「ああ、言ったな」
 俺が指摘すると、ジャーイルはさも腹黒そうな笑みを浮かべた。
「それ以上の意味はなかったが、口が滑っただけさ」
「嘘くさい笑顔だな。まあ、お前の考えを聞いた後だと、察しはつくが、あえて聞かないことにするよ」
「そうか。まあ、俺はこれでもお前より長生きしてるからな。お前の知らないことも、少しは知ってるんだよ。必要がありゃ、またそのとき話すさ」

 ほんとですよ。察しはついているんです。強がりじゃないんです。
 ベイルフォウスがプートを筆頭としたデヴィル族の大公たちを何かしら疑っていることは確実だ。それに、逆から見れば……つまり、アリネーゼが言っていたように、デヴィル族の大公たちがデーモン族の大公たち、即ち俺らが、何かをたくらんでいるのではと疑っていることも。
 それがわかれば、ベイルフォウスがマストヴォーゼの死を原因をプートに求めるだろうことは、想像に難くない。種族を問わず相手の人柄を見て友人を定めるマストヴォーゼは、デーモン族を快く思わないデヴィル族が一枚岩となるためには画竜点睛を欠く存在になりうるからな。

 ベイルフォウスは二度ほど瞬くと、いつもの気軽な調子に戻って俺の胸に拳を当てた。
「まあそうだな……とりあえず、お前のところに行っても、マストヴォーゼの家族については、気にしないことにするよ。俺のキャラじゃないし。しかし、そうか。今度の食事会とやら……マーミルまで参加するなら、俺も行くかな。兄貴も当然行くだろうし」
 あからさまに話題を戻してきたな。
 これ以上はつっこまれてもしゃべらんぞ、ということか。仕方ない。

 俺はため息をつき、ベイルフォウスに言った。
「ルデルフォウス陛下といえば、ベイルフォウス、お前が選定会議でデイセントローズが話してるうちにとっとと帰るもんだから、後でフォローなさってたぞ」
「……俺、あいつ嫌い」
 おいおい。子供かよ。まあ、俺も正直なところ、第一印象は悪かったが。
「慇懃無礼なところが、気に障るってところか?」
「あ、お前もやっぱそう思った?」
「まあ、少しな……」
「まあ、そんなわけだからさ、万が一俺が食事会でまずいことやらかしそうだったら、お前、フォロー頼むな」
 は? いや、なんだよ、何やらかすつもりだよ。やめてくれよ、下手にもめるのは。
「あと、ウィストベルとアリネーゼが喧嘩しそうだったら、こないだの俺みたいにちゃんと止めろよ?」
「うええ。あの二人って毎回ああなのか?」
「いや、いつもはあんなあからさまにやり合わないが、最近ウィストベルの機嫌がよろしくなくてな。アリネーゼはアリネーゼで、いつもより挑発的だし」
 そうなのか。じゃあ、俺もあんまり怒らせないように気をつけないと。
「しかし、みんな食事会には行くのかな?」
「行くだろう。お前の舞踏会にも全員参加だったろ? 大公同士で顔を合わせる機会は存外少ないから、誰しもこういう機会を逃さず相手の偵察や情報収集にいそしむもんさ。主催者の意向とは関係なく、な」
 確かに、大公位についてからのこの一年、俺が七大大公が揃っているのを見たのは、俺の選定会議、舞踏会、この間の御前会議のたった三回のみだ。

「ところでわが友、昨夜の続きだが」
 ベイルフォウスがまた声をひそめて話しかけてくる。
「お前、今、嫁探ししてるんだって?」
「は!?」
 俺は驚愕のあまり、ベイルフォウスの顔をまじまじと見つめてしまった。
「おまっ……それ、誰に……お前のところまでそんな噂が流れてるのか?」
「噂?」
「いや……それが……」
 俺は御前会議の前に家臣団からそんな質問をされたが否定したこと、だがいつの間にか噂が広まっていたようで、最近やたらと未婚の令嬢からアプローチを受けるはめになっていることを話した。

「それに筆頭侍従まで悪のりする始末だ。どうしたもんかと悩んでるところだよ」
「悩む必要あるか? そんなよりどりみどりなら、とりあえず何人かと試してみたらいいだろ?」
「いやいやいや。試すってなんだよ。何を試すんだよ。とりあえずつきあうとか、俺には無理。よっぽど好みならともかく……まずは友達づきあいから初めて、って感じじゃないと」
「まさか、手を握るところから、とか言い出す訳じゃないよな? お前、子供じゃないんだからさ……なんだっけ、しかも昨日の理想……清楚で可憐? そんなだと確実に寂しい一生を送ることになるぞ? せっかく見た目だけはいいのに、宝の持ち腐れだな……」
 見た目だけってなんだ、だけって!
「うっ、うるさいっ」

 ベイルフォウスが憐憫の目を向けてきているのがわかった。ほっといてくれ、俺はお前とは違うんだよ!
「じゃあ、その友達づきあいからっていうんでも、始めたいと思う相手はいないのか?」
「いないなあ……とりあえず、仕事が忙しいからな。それをおいてまで、って相手は今のところ」
 今度はいやに真剣な瞳で、俺のことをじっと見つめてくる。
 なんかちょっと怖い。

「? なんだよ?」
「もう一回聞くが」
 そうしてがっしりと両肩をつかまれた。
「本当に、今、現在、付き合うどころか、まずは友達関係からでも親しくなろう、っていう相手すら、一人もいない、ってことでいいんだな?」
 おいおい、急に大声だすなよ。マーミルがびっくりしてるじゃないか。
「だからいないよ」
「ただの一人も?」
「一人も」
 なんなんだ、こいつ。
「やっぱりな……」

 挙げ句の果てにニヤリと笑って俺の肩から手を離すと、マーミルの方を向いてこう言いやがった。
「残念だったな、マーミル。お前の兄貴ときたら、全く色気なしだ。この調子ならお前の方が早く結婚するはめになるぞ?」
「おま、まさか……」
 俺はベイルフォウスの発言に危機感を覚え、マーミルに駆け寄ると後ろから妹の両肩をつかむ。
「ダメだぞ、マーミルはまだ未成年だ。っていうか、大人になっても、お前にはやらんからな!」
「は? いやいや……」

「お兄さま!」
 やたらテンションをあげたマーミルが、俺の腰に抱きついてくる。
 まさかお前、本当にベイルフォウスのことが……。
「今のは本当ですの?」
「もちろんだ。お前がどうしてもって言ったって、お兄さまはベイルフォウスだけは断固反対だ!」
 俺は強い口調で言った。あっちで我が友が、若干傷ついたような顔をしているが、知ったこっちゃない。
 胸に手をあてて、普段の女癖の悪さについて自省するがいい。
「ベイルフォウス様なんてどうでもいいんです! お兄さまのことですわ!」
「お前ら昨日から兄妹で地味に酷いね」

 ベイルフォウスが何か呟いているが無視だ。
「俺?」
「昨日話していたあの娘とは、結婚どころかおつきあいもしないのですね」
「マーミルお前、内緒だって言」
「黙って、ベイルフォウス様!」
 昨日のあの娘って、エミリーのことか。
「エミリーとどうするって? 俺、そんなこと一言もいってな……」
 俺ははたと思い立つ。

 ああ、そういえば、彼女との会話から逃げられることを喜んでマーミルに腕をひかれるままついていったが、そもそも、俺が人と話している最中に、妹があんな失礼なことを強行するはずがないではないか……。

「まさかマーミル。お前、俺が令嬢とちょっと話をしてたのを見たぐらいで、結婚まで妄想したのか? まさかそれをベイルフォウスに相談しにきた、とか、そんな恥ずかしいこと」
 ちょ……妹よ、いくらなんでもそれはないよな?
 たかが三十分ほど一人の令嬢と話をしただけで、俺の恋心を疑い、俺が普段どれだけ花のない生活を送っているか、親友に暴露するだなんて、そんな残酷なこと……ないといってくれ、妹よ。

「そのまさかだよ。まったく。たかが女と口を利いたくらいで妹に心配されるって、お前は普段からどれだけ乾いた生活をおくってるんだよ。逆に俺は心配だぜ」
 ほんとだよ、全くだよ!
 なにこの公開処刑。恥ずかしすぎる!
 お兄さまは少し泣いてしまいそうだ、妹よ。
 悲しいからではない。恥ずかしいからだ。
 羞恥もたまには涙を呼び起こすのだと、覚えておくがいい妹よ。
「勘弁してくれ、妹よ」
 そう言って顔を覆ってその場にしゃがみ込んだ俺の背を、ベイルフォウスがポンポンと優しく叩いた。

 会話に一息ついたとき、ちょうど朝食の用意ができたと知らせがあったので、俺たちは食堂に移動することにした。
 そうして俺とマーミルはベイルフォウスの城で朝食をごちそうになり、それから食後に他愛のない会話を楽しんで、<不浄なり苔生す墓石城>を後にしたのだった。

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